わたしは、みなさんに遺言を書いていただきたいと思いながら、この連載をはじめました。
最後のテーマは、特に遺言を書いていた方がよいと思われるケースの紹介です。
さて、遺言を書く準備から始めましょうか?
遺言は、自分自身が今を生きるパワーにもなると思いますよ!
(3)特に遺言を書いておいた方がよいケース
遺言は誰もが書いておくのがよいと思いますが、特に書いておいた方がよいケース(というより、このような場合は、遺される方の幸せのためにも書くことが必須)をいくつか紹介します。
①子どもがいない夫婦
久しぶりにサザエさんの家族に登場してもらいましょう。
カツオが花子と結婚しましたが、子どもがいないときにカツオが亡くなると、花子が全財産を相続できるわけではなかったですよね。
親または兄弟姉妹も相続人になります。(お忘れになっていた方は、【相続基礎知識1】をご覧ください。)
すべての財産を花子に遺したいのであれば、遺言が必要です。
相続人全員で遺産分割協議をして、全財産を花子が相続することは可能です。
ただ、他の相続人が同意すればの話です。
先に親(波平・フネ)が亡くなっていたら、サザエ・ワカメ(兄弟姉妹)が相続人になりますが、兄弟姉妹には遺留分が認められません。
(遺留分のことは、【相続基礎知識3】に少し書いています。)
ですので、遺言をしておけば全財産を妻花子に遺すことができます。
②配偶者の連れ子に財産を遺したい
タラオがサザエとマスオの間の子ではなく、サザエと前の夫との間の子だったとします。
この場合、マスオはサザエと結婚しても、マスオとタラオは当然には法的な親子関係にはなりません。
つまり、タラオはマスオの相続人にはならないということです。
マスオとタラオが法的に親子となるには、「養子縁組」の手続が必要です。
養子縁組をせずにタラオに財産を遺したい場合には、遺言が必要です。
③長男の嫁に遺したい
波平は、長男カツオの妻花子が非常に献身的に尽くしてくれたので、花子に自分の財産を遺したいと思っていたとしましょう。
花子は相続人ではありませんので、遺言を書いておかなければ、その思いは果たされません。
「花子に~を遺贈する」旨の遺言が必要です。
ほかに相続人がいる場合には、その遺留分に配慮した内容の遺言にする必要があります。
④事実上の夫婦
カツオと花子が事実婚(内縁関係)の場合、カツオが亡くなったとき花子は相続人になりません。
遺産はすべて波平とフネが引き継ぐことになります。
カツオと一緒に生活していた花子はその家から出ていかなければならなくなるかもしれません。
自分が死んだ後も花子が安心してその家で生活できるようにするには、カツオは 遺言を書いておく必要があります。
内縁の花子がカツオの相続人波平・フネと協力して相続手続きを進めるのは困難な場合もあります。その場合は、「遺言執行者」を定めておくのがよいでしょう。
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※遺言執行者
「遺言執行者」とは、『遺言者が亡くなった後、遺言者の意思のとおりに遺言を実現する人』のことです。
財産を引き継ぐ相続人もなることができます 。
第三者への遺贈のように、相続人の利害に反する遺言を実現する場合、相続人に関与してもらうことが難しいときがあります。
そのようなときは、司法書士や弁護士などの専門家を指定することが多いようです。
遺言事項の中には、法律上、遺言執行者にしか行えない事項があります。それは、
- 遺言によって認知する場合
- 遺言によって推定相続人を廃除する場合
です。
これらは生前にご自身で手続をすることもできますが、何らかの事情があって遺言に書こうと思われる方は、遺言で遺言執行者を指定しておくと、手続きがスムーズに進むでしょう。
もし、遺言で指定していなければ、相続人が家庭裁判所で遺言執行者を選任する手続きをしなければならなくなります。(相続人の手を煩わせることになってしまいます。)
なお、指定する遺言執行者には、事前に了承を得ておきましょう。
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⑤ペットの世話を見てもらいたい
フネは、タマというネコを飼っています。
自分の死後、サザエにタマの面倒を見てくれるように頼み、サザエも快く承諾してくれました。
このような場合には、「負担付き遺贈」という方法でタマの餌代や病院代のための金銭を遺す代わりにタマの面倒を見てもらうという内容の遺言をすることもできます。
負担付遺贈を受けた人は断る(放棄する)こともできますので、事前に承諾を得ておきましょう。
(了)
(編集後記)
わたしは、自分がはじめて遺言を書いたときのことをよく覚えています。
手書きの遺言(自筆証書遺言)を書き終えたとき、自然に涙が出てきました。
遺言には、遺言事項を書いたあとに、妻あての手紙と子どもあての手紙(付言事項)を添えました。
子どもは、たしか生まれてすぐのころだったと思いますが、
「がんばろう」「まだまだ死ねない」って気持ちになりました。
(昨年、2人めの子どもが生まれたので、書きなおして、その子あての手紙も加えました。)
遺言は、遺言者が死んだあとに効力が生じるので、自分が死んだあとに、家族に届く手紙です。
しかし、遺言は、自分自身が今を生きるパワーにもなると思います。
みなさん、遺言を書いてみませんか?
<相続基礎知識>
- 【相続基礎知識1】だれが相続人になるか、分かりますか?
- 【相続基礎知識2】代襲相続…子どもが親より先に亡くなったとき、相続人はどうなるの?
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